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第4章 - セクション3

要件をヒアリングする技術

本当に必要なものを引き出す質問とAI議事録

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先生、案件が始まったら、まずクライアントの「やってほしいこと」を聞くんですよね?言われた通りに作ればいいんじゃないですか?

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実はそこが大きな落とし穴なんだ。「言われた通り」に作ったのに、「これじゃない」と言われることがよくある。クライアントは技術の専門家じゃないから、要望をうまく言葉にできないことも多い。だからこそ、エンジニアが「本当に必要なもの」を引き出す力が重要になるんだよ。

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聞くのって難しいんですね…何か良い方法はありますか?

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あるよ。今日は、認識のズレを減らして手戻りを防ぐ「要件ヒアリング」の技術を学ぼう。そして、AIを使った議事録作成で「言った言わない」のトラブルも防げる方法も紹介するね。

要件ヒアリングって何?

要件ヒアリングとは、クライアントの「要望」を、開発チームが実装できる「要件」に整理していくプロセスです。この違いを理解することが、プロジェクト成功の第一歩になります。

「要望」と「要件」の違い

クライアントが話す内容は、多くの場合「要望(やってほしいこと)」です。これを、具体的な「要件(作るものの約束)」に変換するのがエンジニアの役割です。

要望 vs 要件
曖昧な要望を具体的な要件に変換する
要望
クライアントが話すこと
使いやすくしてほしい
何をどう使いやすくするかが不明確
ログイン機能が欲しい
パスワード?SNS連携?仕様が曖昧
速くしてほしい
何秒以内?どの操作を?基準がない
セキュリティを強化したい
どのレベル?何を守る?範囲が広い
要件
エンジニアが実装する内容
フォーム入力は3項目以内、エラー表示は赤文字で即時
「使いやすさ」を具体的な仕様に変換
メールアドレス+パスワード認証、2段階認証オプション
ログイン方式とセキュリティを明確化
検索結果の表示は2秒以内、ページ遷移は1秒以内
「速さ」を測定可能な数値に変換
SSL通信必須、パスワードはハッシュ化、定期的な脆弱性診断
セキュリティ対策を具体的に列挙
要件定義は「翻訳」の仕事
クライアントの言葉を、開発チームが理解できる技術仕様に翻訳する。この翻訳が曖昧だと、作り直しや追加費用が発生します。

要望のままでプロジェクトを進めると、開発途中や完成後に「イメージと違う」「これも必要だった」といった手戻りが発生します。ヒアリングを丁寧に行い、最初に要件を明確にすることで、こうした無駄な作業を大幅に減らせるのです。

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「速くして」って言われても、何を速くするかで全然違いますもんね。

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そう。だからこそ、質問を通じて曖昧な部分を具体化していくんだ。次は、最初に聞くべきポイントを見ていこう。

まず聞くべき「5つの箱」

ヒアリングで何から聞けばいいか迷ったら、まずは以下の「5つの箱」を埋めることから始めましょう。この5つが明確になれば、要件の大枠が見えてきます。

要件ヒアリングの5つの箱
最初にこの5つを明確にしよう
目的(Why)
なぜこのシステムが必要なのか?解決したい課題は何か?成功したらどうなるか?ゴールを明確にすることで、機能の優先順位が決まります。
利用者(Who)
誰が使うのか?年齢層は?ITリテラシーは?利用者像が明確になると、UIの設計方針や必要な機能が見えてきます。
利用シーン(When/Where)
いつ、どこで使うのか?移動中?オフィス?スマホ?PC?利用環境を知ることで、レスポンシブ対応やオフライン機能の必要性が判断できます。
制約(Constraint)
予算はいくら?納期はいつ?使える技術は?法律やルールは?制約を最初に把握することで、実現可能な範囲が見えてきます。
成功条件(Success)
何ができたら成功?ユーザー数?売上?満足度?測定可能な指標を決めることで、後から「成功した」と判断できます。

機能要件と非機能要件も忘れずに

ヒアリングでは、「何をするか(機能要件)」だけでなく、「どう動くか(非機能要件)」も確認が必要です。

非機能要件とは、システムの品質に関わる要素で、以下のようなものがあります。

  • 性能・速度 何秒以内に表示されるべきか、同時に何人がアクセスしても大丈夫か
  • セキュリティ どんなデータを守るか、どのレベルのセキュリティが必要か
  • 可用性 24時間365日動く必要があるか、メンテナンス時間は許容されるか
  • 拡張性 将来的にユーザーが増えたとき、システムを拡張できるか
  • 保守性 機能追加や修正がしやすい設計になっているか

これらは後から追加するのが難しいため、最初のヒアリング段階で確認しておくことが重要です。

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機能だけじゃなくて、速さや安全性も最初に決めておくんですね。

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そう。後から「もっと速くして」「もっと安全にして」と言われても、設計からやり直しになることもある。最初に基準を決めておけば、開発がスムーズに進むんだ。

質問のコツ:曖昧→具体→合意

ヒアリングでは、質問の順番と種類が重要です。いきなり細かい仕様を聞いても、全体像が見えないとクライアントも答えにくいものです。以下の4ステップで進めると、スムーズに要件を整理できます。

効果的なヒアリングの進め方
STEP
01
事前準備
質問リストとメモの準備で確認漏れを防ぐ
STEP
02
質問で引き出す
オープン→クローズの順で曖昧を具体化する
STEP
03
その場で要約する
認識のズレを会議中に解消する
STEP
04
合意と次アクション
決定事項を明文化し、次の行動を明確にする

オープン質問とクローズ質問の使い分け

質問には大きく2つの種類があります。状況に応じて使い分けることで、効率よく情報を引き出せます。

オープン質問(自由回答)

  • 全体像や背景を知りたいときに使う
  • 例:「このシステムで何を実現したいですか?」「現在の課題は何ですか?」
  • メリット:予想外の情報や本音を聞き出せる
  • 注意点:話が広がりすぎることもある

クローズ質問(選択肢)

  • 具体的な仕様を決めたいときに使う
  • 例:「ログインは、メールアドレスですか?それとも電話番号ですか?」
  • メリット:素早く結論を出せる
  • 注意点:選択肢にない答えを見逃す可能性がある

最初はオープン質問で広く聞き、徐々にクローズ質問で絞り込んでいくのが効果的です。

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最初から「AとBどっちですか?」って聞くより、まず「どうしたいですか?」って聞いたほうがいいんですね。

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そういうこと。最初から選択肢を限定すると、クライアントが本当に欲しいものとは違う方向に進んでしまうこともあるからね。

AI議事録の使い方(安全に)

ヒアリングの内容を正確に記録することは、認識のズレを防ぐために非常に重要です。しかし、会議中にメモを取りながら話を聞くのは難しいものです。そこで活用したいのがAIによる議事録作成支援です。

AI議事録作成の基本フロー

現在、以下のようなツールとAIを組み合わせることで、議事録作成を大幅に効率化できます。

  • 文字起こし
    • Google Meetの文字起こし機能、Otter.ai、Notta などを使い、会議内容を自動でテキスト化する
  • 要約・整理
    • ChatGPT、Claude、Gemini などに文字起こしテキストを渡し、「決定事項」「未決事項」「ToDo」を抽出してもらう
  • 人による確認
    • AIが出力した議事録を必ず人が読み、抜け漏れや誤認識がないかチェックする
  • 共有と合意
    • 議事録をクライアントに送り、内容に相違がないか確認してもらい、合意を得る

議事録のテンプレート

AIに依頼するときは、以下のような構造化されたフォーマットで出力してもらうと、後から見返しやすくなります。

# 議事録:〇〇システム要件ヒアリング

**日時**: 2025年12月23日 14:00-15:00
**参加者**: 〇〇さん(クライアント)、△△(エンジニア)
**場所**: オンライン会議

## 今回決まったこと(決定事項)
- ログイン方式はメールアドレス+パスワード認証を採用
- 検索機能は全文検索ではなく、カテゴリ絞り込みで実装
- 納期は2月末、予算は上限150万円

## 次回までに決めること(未決事項)
- デザインのカラー案(〇〇さんが候補を3つ用意)
- 管理者の権限範囲(どこまで編集できるか)
- サーバーの選定(AWSかさくらか)

## やること(ToDo)
- [ ] デザインカラー案の作成(〇〇さん・12/30まで)
- [ ] サーバー比較資料の作成(△△・12/28まで)
- [ ] 次回ミーティング日程調整(△△・今週中)

## 次回ミーティング
- **日時**: 1月10日 14:00-15:00
- **議題**: デザイン確認、管理者権限の決定

## 補足・メモ
- 〇〇さんから「将来的にスマホアプリも検討したい」との発言あり
- 競合サービスとして「△△サービス」を参考にしたいとのこと

AIへの議事録作成プロンプト例

文字起こしテキストをAIに渡すとき、以下のようなプロンプトを使うと、構造化された議事録を作成してもらえます。

以下は会議の文字起こしテキストです。
このテキストから、議事録を以下の形式で作成してください。

【必須項目】
1. 今回決まったこと(決定事項)
2. 次回までに決めること(未決事項)
3. やること(ToDo)- 担当者と期限を含める
4. 次回ミーティングの日程と議題

【注意点】
- 曖昧な表現は残さず、具体的に記載する
- 数値や固有名詞は正確に
- 発言者の名前は「クライアント」「エンジニア」など役割で記載

【文字起こしテキスト】
(ここに会議の文字起こしを貼り付け)

AI議事録を使うときの注意点

AIは便利ですが、使い方を間違えると問題が起きることもあります。以下の点に注意しましょう。

  • 機密情報の扱い
    • クライアントの機密情報を含む会議内容を、外部AIサービスに送る前に許可を得る
  • 録音・文字起こしの許可
    • 会議の冒頭で「議事録作成のため録音させてください」と必ず許可を取る
  • AI出力の鵜呑み禁止
    • AIは誤解釈や重要な発言の見落としをすることがある。必ず人が最終チェックする
  • 決定事項の再確認
    • 議事録をクライアントに送り、「この理解で合っていますか?」と確認を取る

AIはあくまで「記録と整理の補助ツール」です。最終的な責任は人が持ち、内容の正確性を担保する必要があります。

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AIに任せっきりじゃダメなんですね。確認作業は人間の責任なんだ。

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そう。AIは便利だけど、間違えることもある。特に数字や固有名詞、ニュアンスの違いは人が確認しないと危険だよ。「AIが言ってました」は通用しない。責任を持つのは自分なんだ。

ありがちな失敗と防ぎ方

ヒアリングでよくある失敗パターンを知っておくと、事前に対策を打つことができます。

よくある失敗パターン

  • スコープが増殖する
    • 会議のたびに「これも欲しい」「あれも必要」と要望が増え続け、納期と予算が破綻する
    • 防ぎ方 追加要望は別フェーズ扱いにし、まず最小限の機能で完成させることを合意する
  • 確認せず進める
    • 「たぶんこうだろう」と推測で実装を進め、後から大幅な手戻りが発生する
    • 防ぎ方 曖昧な点は必ず確認し、決まったことは文書化してクライアントのサインをもらう
  • 非機能要件が抜ける
    • 機能ばかり話して、性能やセキュリティの話を忘れ、後から「遅い」「不安」と言われる
    • 防ぎ方 ヒアリングの質問リストに非機能要件の項目を必ず含めておく
  • 決定者が不明
    • 会議に参加している人が決定権を持っておらず、後から「上に確認します」となり進まない
    • 防ぎ方 最初に「この場で決定できる方はどなたですか?」と確認し、決定者を巻き込む

会議の最後に必ずやること

会議が終わる前に、以下を必ず確認しましょう。これをやるだけで、認識のズレと手戻りが大幅に減ります。

  • 今日決まったこと を声に出して読み上げ、参加者全員で確認する
  • 次回までに決めること と、誰が何を調べるかを明確にする
  • 次回ミーティングの日程と議題 をその場で決める
  • 議事録を送る期限 を宣言し、24時間以内に共有することを約束する

会議の最後の5分でこれをやるだけで、プロジェクトの成功率は大きく変わります。

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会議が終わるときに「今日決まったこと」を確認するの、大事ですね。

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会議中は全員が「わかった」つもりでも、実は微妙に認識が違うことがよくある。最後に確認することで、その場でズレを直せるんだ。

まとめ

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要件ヒアリングって、ただ聞くだけじゃなくて、曖昧なことを具体的にしていく作業なんですね。

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そう。クライアントは「こんなのが欲しい」とは言えても、技術的な仕様まではわからない。エンジニアが質問を通じて、実装できる形に翻訳していくんだ。

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5つの箱を埋めてから細かい話に入るのも、わかりやすくて良いですね。

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そうだね。全体像が見えると、細かい話もスムーズに進む。そしてAI議事録で記録を残せば、「言った言わない」のトラブルも防げる。ヒアリングは信頼関係を作る大事な場面なんだよ。

要件ヒアリングのポイント
  • 要望→要件の翻訳 クライアントの曖昧な要望を、実装可能な具体的な要件に変換する
  • 5つの箱を埋める 目的・利用者・利用シーン・制約・成功条件を最初に明確にする
  • オープン→クローズ 最初は広く聞き、徐々に選択肢を絞り込んで具体化する
  • その場で要約 会議中に「今決まったこと」を確認し、認識のズレをその場で解消する
  • AI議事録の活用 文字起こし→要約でミス記録を減らすが、人による最終確認は必須
  • 非機能要件も忘れずに 機能だけでなく、速度・セキュリティ・可用性も最初に確認する
  • 決定事項の文書化 議事録を24時間以内に共有し、クライアントの合意を得る

次のレッスンでは、決まった要件をもとに、スケジュールを管理し納期を守る技術を学びます。

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