要件ヒアリングって何?
要件ヒアリングとは、クライアントの「要望」を、開発チームが実装できる「要件」に整理していくプロセスです。この違いを理解することが、プロジェクト成功の第一歩になります。
「要望」と「要件」の違い
クライアントが話す内容は、多くの場合「要望(やってほしいこと)」です。これを、具体的な「要件(作るものの約束)」に変換するのがエンジニアの役割です。
何をどう使いやすくするかが不明確
パスワード?SNS連携?仕様が曖昧
何秒以内?どの操作を?基準がない
どのレベル?何を守る?範囲が広い
「使いやすさ」を具体的な仕様に変換
ログイン方式とセキュリティを明確化
「速さ」を測定可能な数値に変換
セキュリティ対策を具体的に列挙
要望のままでプロジェクトを進めると、開発途中や完成後に「イメージと違う」「これも必要だった」といった手戻りが発生します。ヒアリングを丁寧に行い、最初に要件を明確にすることで、こうした無駄な作業を大幅に減らせるのです。
まず聞くべき「5つの箱」
ヒアリングで何から聞けばいいか迷ったら、まずは以下の「5つの箱」を埋めることから始めましょう。この5つが明確になれば、要件の大枠が見えてきます。
機能要件と非機能要件も忘れずに
ヒアリングでは、「何をするか(機能要件)」だけでなく、「どう動くか(非機能要件)」も確認が必要です。
非機能要件とは、システムの品質に関わる要素で、以下のようなものがあります。
- 性能・速度 何秒以内に表示されるべきか、同時に何人がアクセスしても大丈夫か
- セキュリティ どんなデータを守るか、どのレベルのセキュリティが必要か
- 可用性 24時間365日動く必要があるか、メンテナンス時間は許容されるか
- 拡張性 将来的にユーザーが増えたとき、システムを拡張できるか
- 保守性 機能追加や修正がしやすい設計になっているか
これらは後から追加するのが難しいため、最初のヒアリング段階で確認しておくことが重要です。
質問のコツ:曖昧→具体→合意
ヒアリングでは、質問の順番と種類が重要です。いきなり細かい仕様を聞いても、全体像が見えないとクライアントも答えにくいものです。以下の4ステップで進めると、スムーズに要件を整理できます。
オープン質問とクローズ質問の使い分け
質問には大きく2つの種類があります。状況に応じて使い分けることで、効率よく情報を引き出せます。
オープン質問(自由回答)
- 全体像や背景を知りたいときに使う
- 例:「このシステムで何を実現したいですか?」「現在の課題は何ですか?」
- メリット:予想外の情報や本音を聞き出せる
- 注意点:話が広がりすぎることもある
クローズ質問(選択肢)
- 具体的な仕様を決めたいときに使う
- 例:「ログインは、メールアドレスですか?それとも電話番号ですか?」
- メリット:素早く結論を出せる
- 注意点:選択肢にない答えを見逃す可能性がある
最初はオープン質問で広く聞き、徐々にクローズ質問で絞り込んでいくのが効果的です。
AI議事録の使い方(安全に)
ヒアリングの内容を正確に記録することは、認識のズレを防ぐために非常に重要です。しかし、会議中にメモを取りながら話を聞くのは難しいものです。そこで活用したいのがAIによる議事録作成支援です。
AI議事録作成の基本フロー
現在、以下のようなツールとAIを組み合わせることで、議事録作成を大幅に効率化できます。
- 文字起こし
- Google Meetの文字起こし機能、Otter.ai、Notta などを使い、会議内容を自動でテキスト化する
- 要約・整理
- ChatGPT、Claude、Gemini などに文字起こしテキストを渡し、「決定事項」「未決事項」「ToDo」を抽出してもらう
- 人による確認
- AIが出力した議事録を必ず人が読み、抜け漏れや誤認識がないかチェックする
- 共有と合意
- 議事録をクライアントに送り、内容に相違がないか確認してもらい、合意を得る
議事録のテンプレート
AIに依頼するときは、以下のような構造化されたフォーマットで出力してもらうと、後から見返しやすくなります。
# 議事録:〇〇システム要件ヒアリング
**日時**: 2025年12月23日 14:00-15:00
**参加者**: 〇〇さん(クライアント)、△△(エンジニア)
**場所**: オンライン会議
## 今回決まったこと(決定事項)
- ログイン方式はメールアドレス+パスワード認証を採用
- 検索機能は全文検索ではなく、カテゴリ絞り込みで実装
- 納期は2月末、予算は上限150万円
## 次回までに決めること(未決事項)
- デザインのカラー案(〇〇さんが候補を3つ用意)
- 管理者の権限範囲(どこまで編集できるか)
- サーバーの選定(AWSかさくらか)
## やること(ToDo)
- [ ] デザインカラー案の作成(〇〇さん・12/30まで)
- [ ] サーバー比較資料の作成(△△・12/28まで)
- [ ] 次回ミーティング日程調整(△△・今週中)
## 次回ミーティング
- **日時**: 1月10日 14:00-15:00
- **議題**: デザイン確認、管理者権限の決定
## 補足・メモ
- 〇〇さんから「将来的にスマホアプリも検討したい」との発言あり
- 競合サービスとして「△△サービス」を参考にしたいとのこと AIへの議事録作成プロンプト例
文字起こしテキストをAIに渡すとき、以下のようなプロンプトを使うと、構造化された議事録を作成してもらえます。
以下は会議の文字起こしテキストです。
このテキストから、議事録を以下の形式で作成してください。
【必須項目】
1. 今回決まったこと(決定事項)
2. 次回までに決めること(未決事項)
3. やること(ToDo)- 担当者と期限を含める
4. 次回ミーティングの日程と議題
【注意点】
- 曖昧な表現は残さず、具体的に記載する
- 数値や固有名詞は正確に
- 発言者の名前は「クライアント」「エンジニア」など役割で記載
【文字起こしテキスト】
(ここに会議の文字起こしを貼り付け) AI議事録を使うときの注意点
AIは便利ですが、使い方を間違えると問題が起きることもあります。以下の点に注意しましょう。
- 機密情報の扱い
- クライアントの機密情報を含む会議内容を、外部AIサービスに送る前に許可を得る
- 録音・文字起こしの許可
- 会議の冒頭で「議事録作成のため録音させてください」と必ず許可を取る
- AI出力の鵜呑み禁止
- AIは誤解釈や重要な発言の見落としをすることがある。必ず人が最終チェックする
- 決定事項の再確認
- 議事録をクライアントに送り、「この理解で合っていますか?」と確認を取る
AIはあくまで「記録と整理の補助ツール」です。最終的な責任は人が持ち、内容の正確性を担保する必要があります。
ありがちな失敗と防ぎ方
ヒアリングでよくある失敗パターンを知っておくと、事前に対策を打つことができます。
よくある失敗パターン
- スコープが増殖する
- 会議のたびに「これも欲しい」「あれも必要」と要望が増え続け、納期と予算が破綻する
- 防ぎ方 追加要望は別フェーズ扱いにし、まず最小限の機能で完成させることを合意する
- 確認せず進める
- 「たぶんこうだろう」と推測で実装を進め、後から大幅な手戻りが発生する
- 防ぎ方 曖昧な点は必ず確認し、決まったことは文書化してクライアントのサインをもらう
- 非機能要件が抜ける
- 機能ばかり話して、性能やセキュリティの話を忘れ、後から「遅い」「不安」と言われる
- 防ぎ方 ヒアリングの質問リストに非機能要件の項目を必ず含めておく
- 決定者が不明
- 会議に参加している人が決定権を持っておらず、後から「上に確認します」となり進まない
- 防ぎ方 最初に「この場で決定できる方はどなたですか?」と確認し、決定者を巻き込む
会議の最後に必ずやること
会議が終わる前に、以下を必ず確認しましょう。これをやるだけで、認識のズレと手戻りが大幅に減ります。
- 今日決まったこと を声に出して読み上げ、参加者全員で確認する
- 次回までに決めること と、誰が何を調べるかを明確にする
- 次回ミーティングの日程と議題 をその場で決める
- 議事録を送る期限 を宣言し、24時間以内に共有することを約束する
会議の最後の5分でこれをやるだけで、プロジェクトの成功率は大きく変わります。
まとめ
- 要望→要件の翻訳 クライアントの曖昧な要望を、実装可能な具体的な要件に変換する
- 5つの箱を埋める 目的・利用者・利用シーン・制約・成功条件を最初に明確にする
- オープン→クローズ 最初は広く聞き、徐々に選択肢を絞り込んで具体化する
- その場で要約 会議中に「今決まったこと」を確認し、認識のズレをその場で解消する
- AI議事録の活用 文字起こし→要約でミス記録を減らすが、人による最終確認は必須
- 非機能要件も忘れずに 機能だけでなく、速度・セキュリティ・可用性も最初に確認する
- 決定事項の文書化 議事録を24時間以内に共有し、クライアントの合意を得る
次のレッスンでは、決まった要件をもとに、スケジュールを管理し納期を守る技術を学びます。