履歴書と職務経歴書の違い
まず、混同しやすい「履歴書」と「職務経歴書」の違いを押さえておきましょう。
- 履歴書 氏名、住所、学歴、職歴などの基本情報をまとめた書類。フォーマットが決まっている。
- 職務経歴書 これまでの仕事内容、実績、スキルを詳しく説明する書類。フォーマットは自由。
フリーランスエージェントに登録する際は、職務経歴書の提出が求められます。この職務経歴書の中に、技術スキルをまとめた「スキルシート」部分を含めて作成するのが一般的です。
職務経歴書に含める情報
職務経歴書には、大きく分けて2種類の情報を含めます。
- キャリアストーリー どんな会社で、どんなプロジェクトに参加し、どんな成果を出したか
- スキル一覧(スキルシート) 使用可能な言語、フレームワーク、ツール、経験年数など
エージェントの担当者はこの書類を見て「どの案件を紹介するか」を判断し、クライアント企業は「この人に任せて大丈夫か」を判断します。つまり、職務経歴書の出来が案件獲得の鍵を握っているのです。
職務経歴書の基本構成
職務経歴書には決まったフォーマットがあるわけではありませんが、エージェントやクライアントが見やすい「定番の構成」があります。
項目① 基本情報
氏名、生年月日、最寄り駅、連絡先などを記載します。 希望単価や稼働条件(参画可能日・稼働日数など)は、職務経歴書ではなくエージェント登録や面談の場で伝えるのが一般的です。
- 氏名・連絡先 メールアドレス、電話番号
- 最寄り駅 常駐案件の場合に参考にされる
- GitHubやポートフォリオURL コードや実績を確認してもらいやすくなる
項目② 職務要約の書き方
職務要約は、採用担当者が最初に目を通す部分です。ここで興味を引けなければ、詳細まで読んでもらえません。3〜5行で、あなたのキャリアのハイライトを伝えましょう。
職務要約に含めるべき3つの要素
- 経験年数と得意分野 「Webアプリケーション開発に5年従事」
- 主な実績 「ECサイトのリニューアルで売上20%向上に貢献」
- 強み 「要件定義から運用保守まで一貫して対応可能」
職務要約の良い例・悪い例
同じ経験でも、書き方で印象が大きく変わります。
システム開発の経験があります。Javaを使った開発をしてきました。チームで働くことが好きです。色々なプロジェクトに参加してきました。
Webアプリケーション開発に5年従事。Java/Spring Bootを中心に、要件定義から運用保守まで一貫して対応可能です。直近では金融系システムのリニューアルプロジェクトにてリードエンジニアを担当し、API処理速度を40%改善しました。
採用担当者は大量の書類に目を通します。職務要約だけで「この人に会いたい」と思わせることが目標です。具体的な数字や成果を入れると、印象に残りやすくなります。
項目③ 技術スキル(スキルシート)の書き方
職務経歴書の中でも特に重要なのが、技術スキルをまとめた「スキルシート」部分です。エージェントが案件とマッチングする際に真っ先に確認する箇所であり、クライアント企業の技術責任者が「この人は求めるスキルを持っているか」を判断するために使います。
職務経歴詳細が「ストーリー」なら、スキルシート部分は「スペック表」。見やすさと正確さが何より重要です。曖昧な表現や過大評価は、面談時に必ずバレるので注意しましょう。
経験年数の書き方
経験年数は正直に書くことが大切です。「盛る」と面談でバレますし、案件参画後に苦労することになります。
- 実務経験 仕事として使った年数を記載
- 学習経験 個人開発や学習のみの場合は「学習中」「個人開発で使用」と明記
- ブランクがある場合 「20XX年〜20XX年(2年)」のように実際に使った期間を記載
習熟度の表現方法
経験年数だけでは、実際にどのレベルで使えるのかが伝わりません。「JavaScript 3年」と書いてあっても、一人で設計から実装までできる人と、指示された通りに書くだけの人では大きな差があります。経験年数と合わせて習熟度を示すと、クライアントにとって判断材料が増えます。
| レベル | 目安 | 表現例 |
|---|---|---|
| 実務レベル | 一人で設計・実装できる | 「実務3年、設計から実装まで対応可能」 |
| 基本レベル | 指示があれば実装できる | 「実務1年、既存コードの改修経験あり」 |
| 学習レベル | 基礎的な理解がある | 「学習中、個人開発でTodoアプリ作成」 |
項目④ 資格・認定
ITパスポート、基本情報技術者、AWS認定などの資格を記載します。資格がなくても問題ありませんが、学習意欲の証明になります。
- 国家資格 基本情報技術者、応用情報技術者など
- ベンダー資格 AWS認定、Google Cloud認定、Azure認定など
- その他 TOEICスコア、プロジェクトマネジメント資格など
項目⑤ 自己PRの書き方
技術以外の強みをアピールするセクションです。正社員の転職と違い、フリーランスは「すぐに戦力になるか」が重視されます。以下のような観点でアピールしましょう。
- キャッチアップの早さ 新しい環境や技術への適応力
- コミュニケーション力 チームでの協調、リモートメンバーとの連携経験
- 問題解決への姿勢 トラブル時の対応、自走力
- 学習習慣 継続的なスキルアップへの取り組み
自己PRの悪い例
自己PRでありがちな失敗パターンを見てみましょう。
まだ経験が浅いですが、頑張ります。言われたことはきちんとやります。周りの方に迷惑をかけないよう努力します。
コミュニケーション能力には自信があります。チームワークを大切にしています。責任感を持って仕事に取り組みます。
自己PRの良い例
強みのタイプ別に、具体的な書き方を見てみましょう。
新しい技術への適応力を強みとしています。直近のプロジェクトでは、未経験だったTypeScriptとNext.jsを2週間でキャッチアップし、3週目から本番機能の実装を担当しました。公式ドキュメントを読み込み、不明点はチームメンバーに積極的に質問することで、短期間での立ち上がりを実現しています。
リモート環境でのチーム開発経験が豊富です。前職では5名のフルリモートチームで開発を行い、日次のスタンドアップ報告、Slackでのこまめな進捗共有、ドキュメントによる情報の可視化を徹底しました。非同期コミュニケーションでも認識齟齬を起こさない報連相を心がけています。
課題に対して自ら動ける自走力があります。本番環境で発生したパフォーマンス問題に対し、ログ分析からボトルネックを特定、改善案を3パターン提示し、チームで議論の上で実装まで担当しました。指示を待つのではなく、まず自分で調査・仮説立てを行い、相談する際は選択肢を持っていくことを意識しています。
良い自己PRには共通点があります。「〇〇しました」という事実だけでなく、「〇〇を意識しています」「〇〇を心がけています」という姿勢も添えることで、継続的にその強みを発揮できる人だと伝わります。
項目⑥ 職務経歴詳細の書き方
職務経歴詳細は、プロジェクト数が多いと非常に長くなるため、職務経歴書の最後に配置します。採用担当者は職務要約やスキルシートで興味を持った後、この部分を詳しく読みます。
記載すべき項目
プロジェクトごとに以下の項目を整理して記載します。
- 期間 20XX年XX月〜20XX年XX月
- プロジェクト概要 どんなシステム・サービスの開発だったか
- チーム規模 何人のチームで、どんな体制だったか
- 担当役割 設計、実装、テスト、レビューなど具体的に
- 業務内容 実際にやったことを箇条書きで
- 成果・実績 数字で示せるものがあれば必ず入れる
- 使用技術 言語、フレームワーク、ツール、インフラなど
職務経歴詳細の良い例・悪い例
20XX年4月〜20XX年3月
ECサイトの開発を担当。フロントエンドとバックエンドの実装を行いました。ReactとNode.jsを使用。
20XX年4月〜20XX年3月
アパレル企業向けECサイト リニューアルプロジェクト
【チーム規模】PM1名、エンジニア5名、デザイナー2名
【担当役割】フロントエンド開発リーダー
【業務内容】
- React + TypeScriptでのSPA開発
- コンポーネント設計とコードレビュー
- パフォーマンス最適化(LCP改善)
【成果】
- ページ表示速度を2.5秒→0.8秒に改善
- コンバージョン率15%向上に貢献
【使用技術】React, TypeScript, Next.js, Node.js, PostgreSQL, AWS
「〇〇を担当しました」だけでは、どれくらいの貢献だったか伝わりません。「〇〇を担当し、△△を達成しました」と成果まで書くことで、あなたの価値が明確になります。
フリーランス向けの書き方のコツ
正社員の転職活動とフリーランスの案件獲得では、書類の書き方にも違いがあります。
希望単価、稼働可能時間、稼働形態(リモート・常駐)、参画可能日などの条件については、エージェントへの登録時や、面談の場で直接伝えます。次のセクション「エージェントとの面談」で詳しく解説します。
AIを使った添削・ブラッシュアップ術
職務経歴書とスキルシートは、書いて終わりではありません。AIを活用して客観的な視点でブラッシュアップしましょう。
AIに添削を依頼する
書いた内容をAIに見せて、改善点を指摘してもらいます。ポイントは「具体的な観点を指定すること」。漠然と「添削して」と言うより、「成果が伝わるか」「技術力が見えるか」など、チェックしてほしい観点を明示すると、より的確なフィードバックが得られます。
以下はフリーランスエンジニア向けの職務経歴書です。
エージェントやクライアントに「この人と働きたい」と思ってもらえる
内容になっているか、改善点を指摘してください。
【チェックしてほしいポイント】
- 成果が具体的に伝わるか
- 技術力のアピールが十分か
- 読みやすい構成になっているか
- フリーランスとしての強みが伝わるか
---
(職務経歴書の内容をここに貼り付け)
--- 抽象的な表現を具体化する
自分では気づかない抽象的な表現を、AIに指摘してもらいましょう。
以下の職務経歴書の文章で、「抽象的でわかりにくい表現」を
具体的な表現に書き換えてください。
数字や具体例を入れて、成果が伝わるようにしてください。
---
(改善したい文章をここに貼り付け)
--- 技術用語の過不足をチェック
業界の人には伝わっても、人事担当者には伝わらない表現がないか確認します。
この職務経歴書を「ITに詳しくない人事担当者」が読んでも
理解できる内容になっているかチェックしてください。
専門用語が多すぎる場合は、補足説明を入れる提案をしてください。 よくある失敗と対策
せっかく時間をかけて書いた書類も、よくある失敗パターンにはまってしまうと台無しです。エージェントや採用担当者が「よく見る残念な書類」の特徴を知っておき、自分の書類に当てはまっていないかチェックしましょう。
- スキルを盛りすぎる
- 面談で技術的な質問をされたときにバレます。「できます」と書いたなら、質問に答えられるレベルにしておく。
- 成果が抽象的
- 「頑張りました」「貢献しました」では伝わりません。数字や具体的な改善内容を書く。
- 長すぎる
- 職務経歴書は2〜3ページ、スキルシートは1〜2ページが目安。読む側の時間を奪わない。
- 更新していない
- 案件が終わるたびに更新しないと、直近の経験が反映されません。こまめにアップデートを。
- 誤字脱字が多い
- 書類の品質があなたの仕事の品質を示します。必ず見直しを。
自分では気づかないミスや、わかりにくい表現を発見してもらえます。同業の知人やメンターがいれば、見てもらうのがベストです。いなければAIでもOK。
まとめ
- 職務経歴書にスキルシートも含める キャリアストーリーと技術スキルを1つの書類で伝える
- 職務要約で興味を引く 3〜5行で経験年数・得意分野・成果を簡潔に
- 成果は数字で示す 「改善しました」ではなく「〇〇を△△に改善」
- 経験年数は正直に 実務と学習を区別し、盛らない
- 即戦力・自走力をアピール フリーランスならではの強みを伝える
- AIで添削・ブラッシュアップ 自分で書いた内容をAIに磨いてもらう
エージェントは書類を見て案件を紹介し、クライアントは書類を見て「この人に任せるか」を判断します。時間をかけて丁寧に作り込むことで、案件獲得のチャンスが大きく広がります。次は、エージェントとの面談準備と当日の流れについて学んでいきましょう。