案件選びで確認すべき5つの視点
エージェントから紹介される案件票には、さまざまな情報が記載されています。すべてを一度に理解しようとすると混乱してしまうので、まずは5つの視点で整理してみましょう。
これらの視点を一つずつ詳しく見ていきましょう。単価だけで判断して「思っていたのと違った」とならないよう、総合的に確認することが大切です。
単価・報酬条件
単価と報酬条件の読み方
単価は案件選びで最も気になるポイントですが、表面的な金額だけでなく、いくつかの条件を確認する必要があります。
単価の表記に隠れた情報
案件票に「月額60万円」と書いてあっても、実際に受け取れる金額は条件によって変わります。以下の4つのポイントを必ず確認しましょう。
- 税込み / 税抜きの確認 表記が税込みか税抜きかで、実際の受取額が約10%変わる。確認を忘れずに
- 交通費・経費の扱い 交通費が別途支給されるか、単価に含まれているか。常駐案件では特に重要
- 支払いサイト 「月末締め翌月末払い」が一般的。資金繰りに影響するので確認しておく
- エージェントのマージン エージェント経由の場合、表示単価からマージンが引かれた額が手取りになる
特に税込み/税抜きの確認は見落としがちです。60万円(税抜き)と60万円(税込み)では、年間で約70万円もの差が生まれます。
稼働時間・精算幅
精算幅とは何か
準委任契約で最も重要な概念が精算幅です。これは「基準となる稼働時間の範囲」を示すもので、案件票には「140h〜180h」のように記載されています。
例えば「月額60万円(精算幅140h〜180h)」という案件の場合、以下のような意味になります。
- 140時間〜180時間の間 この範囲内で稼働すれば、60万円がそのまま支払われる
- 180時間を超えた場合 超過分が追加で支払われる(超過単価で計算)
- 140時間を下回った場合 不足分が差し引かれる(控除単価で計算)
精算幅の計算方式
精算幅の超過・不足を計算する方法には、大きく分けて2つの方式があります。
上限(180h)で割って計算
下限(140h)で割って計算
60万÷180h=約3,333円/h
60万÷140h=約4,286円/h
中間値(160h)で割って計算
中間値(160h)で割って計算
60万÷160h=3,750円/h
超過時の単価が高くなる
具体的な計算例を見てみましょう。月額60万円(精算幅140h〜180h)の案件で、185時間稼働した場合を比較します。
上下割の場合
- 超過時間:185h - 180h = 5h
- 超過単価:60万円 ÷ 180h = 約3,333円/h
- 追加報酬:3,333円 × 5h = 約16,665円
合計:約616,665円
中間割の場合
- 超過時間:185h - 180h = 5h
- 超過単価:60万円 ÷ 160h = 3,750円/h
- 追加報酬:3,750円 × 5h = 18,750円
合計:618,750円
わずかな差に見えますが、毎月の積み重ねで年間数万円の違いになります。
ここまでが精算幅の確認です。次に、案件票に書かれる稼働時間の見方を確認しましょう。
稼働時間の見方
案件票には稼働時間についてさまざまな表記があります。それぞれの意味を理解しておきましょう。
- 週5日フルタイム 月160時間前後の稼働。最も一般的なパターン
- 週3〜4日稼働 月100〜130時間程度。副業やパラレルワーク向け
- フレックス 出退勤時間が自由。ただしコアタイム(必須の時間帯)がある場合も
- 裁量労働 稼働時間より成果で評価される働き方
自分のライフスタイルや他の案件との兼ね合いを考えて、無理のない稼働時間を選びましょう。
勤務形態・場所
どのような勤務形態かも重要なポイントです。主に以下の3つのパターンがあります。
- フルリモート
- 完全に自宅や好きな場所で働ける。通勤時間がゼロになるメリットが大きい
- ハイブリッド
- 週数回の出社が必要。チームとのコミュニケーションが取りやすい
- 常駐
- クライアント先に常駐して働く。環境が整っていることが多いが、通勤時間が発生する
リモート可否の確認ポイント
リモートワークの可否は、働きやすさに大きく影響します。
- 「フルリモート」の落とし穴
- 「フルリモート可」でも、最初の1〜2週間は出社が必要なケースがある
- 「リモート可」の曖昧さ
- 週1〜2日の出社が求められることも。出社頻度を具体的に確認する
- ハイブリッドの実態
- 「週2出社」と書いてあっても、チーム状況で変わることがある
- 勤務地の確認
- 常駐の場合、通勤時間が負担にならないか考慮する
勤務場所の確認も忘れずに行いましょう。特に常駐案件では、勤務地が自宅から遠いと通勤時間が大きな負担になります。
技術スタック・成長
必須スキルと歓迎スキル
案件票のスキル欄には、通常「必須(MUST)」と「歓迎(WANT)」が分かれて記載されています。
- 必須スキル(MUST) これがないと応募しても通らない。自分のスキルと照らし合わせて判断する
- 歓迎スキル(WANT) あれば選考で有利になる。なくても応募は可能
- 経験年数の目安 「3年以上」などの記載があっても、実力があれば相談可能なケースも多い
自分のスキルが必須条件を80%以上満たしていれば、挑戦してみる価値はあります。残りの20%は入ってから学ぶ姿勢を見せることで、カバーできることも少なくありません。
キャリアアップにつながるか
単価や条件だけでなく、その案件で何を学べるかも重要な視点です。
- 新しい技術を学べるか
- 自分のスキルセットに新しい武器を追加できる案件は価値が高い
- 上流工程に関われるか
- 設計や要件定義に関わる経験は、単価アップにつながる
- チーム開発の経験
- 一人で作業するより、チームで開発した経験の方が市場価値が高い
- 同じ作業の繰り返しではないか
- ルーティンワークばかりだと、スキルが停滞するリスクがある
契約条件
単価や稼働時間に目が行きがちですが、契約に関する項目も重要です。ここを確認せずに契約してしまうと、後からトラブルになることがあります。
契約形態を確認する
エージェント経由の案件は、ほぼすべてが準委任契約です。案件票に「業務委託」と書かれていても、基本的には準委任契約と考えて問題ありません。
準委任契約は「時間に対して報酬が発生する」契約形態です。月額固定で報酬を受け取り、決められた時間を稼働するという働き方になります。第1章で学んだ内容を思い出しながら、案件票を確認していきましょう。
契約期間と更新
フリーランスにとって、案件の継続性は収入の安定に直結します。以下の点を確認しておきましょう。
- 契約期間 3ヶ月、6ヶ月、1年など。短期すぎると次の案件探しが大変
- 更新の可能性 「長期想定」と書いてあれば、継続して働ける可能性が高い
- 更新のタイミング 契約終了の1ヶ月前には更新可否がわかるのが一般的
契約解除と中途解約
自分から辞める場合も、クライアント都合で終了する場合も、事前にルールを把握しておくことが大切です。
- 契約解除条件 どのような場合に契約が打ち切られるかを確認
- 中途解約時の扱い 自分から辞める場合の事前告知期間(通常1ヶ月前)
- 違約金の有無 中途解約時にペナルティがあるかどうか
その他のリスク項目
契約書には細かい条項がたくさんありますが、特に以下の3点は目を通しておきましょう。
- 秘密保持義務(NDA) 業務で知り得た情報の取り扱いについて
- 競業避止義務 退職後に同業他社で働くことへの制限があるか
- 損害賠償の範囲 万が一のトラブル時の責任範囲
これらの項目は契約書に記載されていることが多いです。不明点があれば、エージェントに確認しましょう。
案件票を読むときのチェックステップ
最後に、復習の意味でもう一度確認しましょう。
案件票を見るときは、次の5ステップでチェックすると見落としが減ります。
まとめ
- 単価は表面だけで判断しない 税込み/税抜き、精算幅、精算方式まで確認して手取りを計算する
- 精算幅の計算方式を確認 中間割の方がフリーランスに有利。契約前にエージェントに確認する
- 稼働時間とリモート可否 自分のライフスタイルに合った働き方ができるか確認
- 技術スタックは80%マッチでOK 必須スキルを満たしていれば、残りは入ってから学ぶ姿勢を見せる。成長できる内容かも合わせて確認
- 契約条件も忘れずに 契約期間、更新可能性、解除条件など、長期的な視点で確認
次は、最初の仕事を「経験を積む」つもりで取り組む心構えについて見ていきましょう。